映画『海獣の子供』が傑作だった【感想】
米津玄師の「海の幽霊」効果で話題になっているアニメーション映画『海獣の子供』鑑賞してまいりました。公開日初日だからか、平日の朝一でもかなり客が入っていました。客層は割と広めですが、若い人が多かった印象です。
ネタバレ防止&原作未読につき、ストーリーには触れないで、ざっくりした感想を書きます。
大切なことは、セリフでは言わない
本作は、最近の他の商業アニメ映画と比べると、セリフ、特に説明ゼリフが少ないと感じる。近年の映像作品は、何でもかんでもセリフで説明してしまうものが多いが、この作品はそれとはまったく対照的な作品だ。セリフで状況説明をすること避け、なるべく映像で伝えようという意思がみなぎっているし、特に後半は、発せられるセリフは概念的なものにとどまり、観客に対して物語や世界を考えさせようとしている。やはりこれは、本作の一つのテーマである「大切なことは言葉にならない」を演出で行った結果だろう。本作の後半では、ほとんどセリフを発しないまま数分間経ったりするが、優れた映像と音楽・音響によって全く退屈することはない。物語にとって大切なことは「映像が」教えてくれる。「説明をしすぎないこと」は評価が分かれがちなポイントだが、映像作品はやはり映像で語りかけるべきものだと思っているので、個人的には好きだ。
美術が素晴らしい
木村真司氏の背景美術については、今までの作品で建築や都市の描写が卓越していることはわかっていたが、本作では特に海の描写・空(宇宙)の描写、魚をはじめとする生物の描写が非常に優れていた印象。海や宇宙といった自然の壮大さを感じさせるシネマトグラフィックなカットは、我々に自然に対する畏怖を感じさせるほどであり、生物描写の生々しさは、アニメーションで生命の躍動(アニマ)を伝達することに完全に成功している。
また、CGの取り入れ方はとても効果的でありながら、手描きのエフェクトを入れるなどして、絵が硬くならないよう工夫がいたるところでなされているのも特徴だ。
これらの背景美術は、単にそれ自体として優れているだけでなく、後述するテーマ性と一致している点も評価すべきポイントだ。
本作のテーマ性
人間は混沌たる自然に秩序を見出すために、言葉を用いた。言葉によって世界を明快に理解する術を得たのである。だが、その理解は完全なものではない。言葉による事象の説明は、多くの物事の捨象によって得られた抽象の結果でしかない。
詩人や歌人は、例えば宮沢賢治がそうであったように、自然の様々な出来事を、できる限りそのまま伝えるために言葉を紡ぎ出す。しかし、どれだけ優れた詩や歌も(劇中で言われたように)、結局は自然を表す一部でしかありえない。
ゆえに、言葉によって、あるいは抽象によって、完全に自然を把握することは不可能である。しかし、西洋的な科学は、自然を理解しようと努める。
この映画では、自然は理解するべき客体として描かれていない。例えば作中では「宇宙の90パーセントは暗黒物質でできており、暗黒物質は未知のものであるのだから、我々はちっとも世界を理解できていない」ことが語られている。本作の演出から感じられるのは、自然は理解すべき客体ではなく、むしろ畏敬の対象であるということだ。
しかしながら、自然を理解はできなくとも感じることはできるとは言っているように見える。それは、「宇宙も我々も、同じものでできている」という一元論的な思想によって、あるいは、「世界と自分には同じようなメカニズムが働いている」ことの自覚によって、である。個人的に手塚治虫が『火の鳥 未来編』で表明した、仏教的な自然観に近いと思った
監督よくやった!
渡辺歩監督にとって、あるいは制作会社、制作委員会にとって本作はチャレンジングで高リスクな作品だったに違いない。ヒットにつながりそうな恋愛要素や観客にとって「親切」で「わかりやすい」シナリオは切り捨て、ひたすら映画としての完成度、芸術性を追求している。このような作品作りに対する真摯な姿勢は何よりも高く評価されるべきだろう。「ストーリーがよくわからない」「泣けない」と言ったレビューが多数現れるとは思うが、気にする必要はない。本作のような作品を見ると、まだ日本のアニメも捨てたもんじゃねえなと思える。今後の渡辺歩監督に期待。
あと原作未読なので、読みたいと思う。原作の神作画あっての映画版っぽいので、必読じゃないか。
個人的なメモ(主に演出についての)
- 初めの方の主人公が走るシーンのCGが良かった(モデリング、テクスチャリング等大変そうだけど、大量の情報量が一気に処理されるのはやはり気持ち良い)
- 水族館の裏側が観れたのが面白かった。普段観れないところが観れた時のワクワク感
- 海の幽霊のシーンの色彩(虹色)が綺麗だった
- 赤い傘はやはり映像的に映えるなあと思った。傷物語もそうだったが。だけど、明度が低い色が多めの今作においては、捉えようにとっては若干不自然感はあったと考えられなくもない
- 手を太陽にかざして綺麗な光線を表現する演出、新海誠の『天気の子』の予告にもあったけど、最近の流行りなのかな
- 砂浜で、ルカと海?が立ってて、カメラがぐいーっと引いていく演出。会場をカメラがぐいーっと引いていく演出。
- 広大な土地(砂とか海とか模様があるもの)+空(+中心に人や物)でカメラを超速で動かす演出をすると、壮大な感じが出るなーと思った
- 星空を見る時のカメラワーク。やっぱり星空を移すときはカメラを回すのがいいんだなーと思った。(『僕だけがいない街』の星空を見上げるシーンでも、カメラをぐるっとさせてた。)星空見上げる時って、首を回して全方向見るから、その体験があるから気持ちよく感じるのかもしれないと思った
- 水族館で海が翔ぶシーン、ニューヨークでクジラ?が息継ぎして戻るシーンとか、運動する物体が曲線を描いているのが、見ていて気持ちよい
- 宇宙のCGが綺麗
- CGから線画だけを取り出す技術?が使われてた演出が、手描きと調和するのにとても効果的だったように感じる。C4Dだとsketch&toonとかでできるけど、どうやったんだろうか。というか、単に手描きした線画を重ねただけかな